している。妖しい蜘蛛の巣を張り巡らしている。
「石川や浜のまさごは尽くるとも世に盗人の種はつきまじ」
釜茹でになるまえの石川五右衛門が辞世の句、あるいは捨てぜりふを残し
ているように、ある程度の年を重ね、世の中を見続けるとわかることだろ
うが、悪いことをするやつは、いなくならないのである。
カール・シファキス著『詐欺とペテンの大百科』がおもしろい。
著者は元UPI通信の記者で、作り話、でっち上げ、贋作、悪ふざけなど、あ
らゆる騙しの事例を集めている。マンハッタン島をまるごと売った男の話
など、スケールの大きなものから寸借詐欺、博打のイカサマまで、こうも
人間は人間を騙すものかと、怒りよりも、むしろおかしさがこみあげてく
る。犯罪的な詐欺だけではなく、芸術としての騙し、マーケティング上の
騙し、大衆扇動型の騙しなどもあり、人の心理の研究材料としても読める。
不思議なことに、日本で流行の「おれおれ詐欺」「架空請求」「リフォー
ム詐欺」に似た手口の詐欺もある。
「すべての手口は、古くからある詐欺の新しい形にすぎない」
と著者が語るように、いくつもある既存のパターンに、新しいニュアンス
を含めたり、新技術と絡めたりすれば新種の騙しができあがる。
詐欺はなくならない。悪いことをするやつは、いなくならない。ある日突如、
人は人を騙し始める。
管理人は、これを悪の人面瘡(じんめんそう)と名付けたい。
まず顎でも股でも背中でも、突然に宿る。容易に治らない。意志を持ち始め、
しゃべる、笑う、食う、酒を飲むようになる。あるいは女を欲しがるように
なる。そして人面瘡は伝染し、横のつながりを持つようになる。
あらゆる世界に棲息しているのである。
●詐欺とペテンの大百科 カール・シファキス/鶴田文 青土社
●ネット社会の犯罪から身を守るためのセキュリティポリシー導入ガイド
ダニエル・S・ジェイナル /平松徹 翔泳社
●超完全詐欺マニュアル 三木孝祐 泉書房