部屋が汚れていると、よけいに暑苦しい。きれいにするに限る。
ホースの先っぽにブラシノズルを付け、エアコン、テレビ、パソコン、空
気清浄機などの隙間部分の埃も取り除くことにする。特にパソコンのキー
ボードが問題だ。隙間にゴミや滓が入り込んでいる。キーを打ちながら物
を食うからだ。
エアコンはフィルターを外す。細かい網目にびっしり埃がたまっている。
ブラシで蹴散らしながら、埃を吸い取る。そこで、ふと違和感が走った。
吸い込みが悪い。
近頃、電気製品が立て続けに壊れゆく。掃除機よ、君もなのか。
しばし考える、単純なことだ。掃除機そのものが埃をためすぎている。
そうに違いない。
掃除機の蓋を開ける。集塵パックが、はち切れんばかりに膨らんでいた。
何年分の埃なのか。いつ交換したのか確かな記憶がない。東京の埃も固まっ
ているのか。懐かしい東京の残滓なのかもしれない。
押入を引っかき回し、新しい集塵パックを見つけて交換する。
ひと苦労したが、掃除機は甦った。床に吸い付くようだ。もともとパワー
のある機械なのだった。作業に調子が出てきた。パイプを伸ばし、部屋の
四方八方に手を伸ばす。
部屋はきれになった。しかし疲れた。放心したように掃除機を見つめなが
ら想う。大きな本体に長いホースがついている。首のようだ。まるで太古
に生きた草食恐竜のフォルムのようである。
恐竜の胴体は大きく重量がある。だが、細くて、やたらに長い首がついて
いる。頭も蛇のように小さい。全長は最大級で35m以上ともいう。
効率の良い機能的なフォルムではないか。胴体は軸として動かさないでも、
首を四方八方に伸せる。遠い崖下の川の水が飲める。高い木の上の葉も、
足下の草も自在に食べることができる。
掃除機のフォルムは、草食恐竜に倣ったのか。狭い部屋で、遙かな太古を
想うのだった。
新恐竜 ドゥーガル ディクソン ダイヤモンド社