ヨーロッパには、いまも少数ながら錬金術師がいるらしい。
以前、作家の荒俣宏がNHKの番組で英国の錬金術師を取材していた。
錬金術師は「金」を生み出すために、部屋いっぱいに仕掛けられた妖しげ
な装置の中に埋もれていた。
そこで、ゆっくり、ゆっくりと生命を育てるように気の遠くなるような時
間を過ごしているという。
アイザック・ニュートンは錬金術に関する膨大な実験ノートを遺している。
銀、水銀、アンチモンなどから「金」を生み出すことに、もう少しで成功
するところだったようだ。
少なくとも、ニュートン自身は、そう思っていたふしがある。
ニュートンは、近代科学の祖であると同時に、マニアックな錬金術師でも
あった。
不思議なのは、錬金術師ニュートンが人類にもたらした最大の功績は、
「科学的世界観」の確立といわれること。
だからこそ、近代科学の祖といわれている。
近代科学的な世界観、方法論とは、たとえば「万有引力」がなぜ存在する
のか?など、哲学的、オカルト的なことは、いっさい問わない。
その力学的な法則のみを発見し、数学で記述すればいい。つまり、誰にで
も繰り返し有効な普遍性、法則性を解き明かすことのみが問われるのであ
る。そのために、自然の言葉を数学に翻訳する。ニュートンは、微積分の
概念の発明者でもあって、数学の発展にも大いに貢献している。
さらに不思議なのは、物体と物体が互いに引き合うという「万有引力」の
発見そのものが、世界霊、生命活性素などといったオカルト的な世界観か
ら生まれていること。
宗教的、魔女的、オカルト的な世界観から近代科学の世界観へ、人類はど
う精神形態を進化させたか。
そのミッシングリンク的な存在が、ニュートンその人なのかもしれない。