夜中に厠に立った一豊(上川隆也)を、格子の向こうから白い着物を着た
女がのぞいていた。しかも闇の中で笑っていた。そんな目にあったら、一
騎当千の武者だって魂消げる。心臓が止まってしまうかもしれない。一豊
は悲鳴をあげて寝間に逃げ戻り、ふとんにもぐり込んだ。
大河ドラマ『功名が辻』、第15回「妻対女」。
いくさのない日々が2回も続いたので、山内家と羽柴家のなかのごたごたが、
いろいろあった。
命懸けで働いて家を大きくしても、一豊には継がせる子が出来ない。
祭祀を絶やすことになると先祖には申し訳ないし、主君に対しても限りな
く不忠だった。
近代的自我の確立した、好き勝手に生きていい時代とは違う。
ただ戦国の頃は、苦労をともにし、いっしょに家を創って行くことで、夫
婦の絆は強かったとも思う。
「わしがほしいのは千代の子じゃ」という一豊の科白も、気分としてはよ
くわかるし、史実のなかの一豊、光秀なども、生涯側室をおかなかったと
もいわれる。
子が出来ないことに対し、一豊は優しいから、千代(仲間由紀恵)はよけ
いに辛い。
そこに小りん(長澤まさみ)がつけ入って、ストーカーまがいの行為を繰
り返す。が、その小りんもどこかせつなく痛々しいのである。もう、とり
あえず泣くしかない。
「長篠の戦い」が始まることを告げる、法螺貝と太鼓の音が、闇のなかに
鳴り響いた。
世界戦史上初といわれる、三千挺の鉄砲による信長軍の「一斉射撃」が行
われる。