山内家に遺る肖像画の中の一豊は、やや下膨れのふっくらとした丸顔である。
上川隆也も馬面ではない。
馬面の男が馬に頬ずりしたりすれば、その光景は奇妙である。
司馬遼太郎や池波正太郎の小説には、しばし馬面の男が登場する。
たんに顔が長いだけではなく、顔の体積が大きくなければ馬面とはいえな
いだろう。頭の鉢に奥行きがなければ馬のような雰囲気が出ないのである。
小説に登場する馬面の男は、馬面というだけで親しみがあり、悪い人のよ
うな感じがしない。
功名が辻、第21回「開運の馬」。
馬は、もともと臆病な動物で、戦場の太鼓の音や銃声、怒声、血の匂いに
慣れさせるのが大変だったという。馬が暴れ出すと手がつけられない。
馬を選ぶなら、上質の軍馬としての素質を見定めなければならない。骨格
や肉付きだけではなく、目の輝きから、その馬の持って生まれた性格や精
神力を感じとらなければならないだろう。
一豊の馬は、戦闘馬を知り尽くした織田の侍たちを唸らせ、信長の心にも
響いた。
騎馬武者は重量で突進して敵の陣形を崩したり、機動力を使って奇襲をか
けたりするが、戦いの主軸はあくまで歩兵である。
だけど、黒澤明の映画「七人の侍」を観ると、戦闘における馬の迫力や恐
ろしさがわかる。
豪雨の中、地を割るような馬蹄の音が連続し、はね飛ばされた泥がスクリー
ンを破って飛び出してきそうな勢いである。もの凄いスピードで襲いかかっ
てくる騎馬の野武士は、地獄の使者ではないかと思うほど、ほんとうに恐
ろしい。
馬は、普段はおとなしいが、激しさを秘めている。
功名が辻のキャストの中で、最高の馬面といえば黒田官兵衛役の斎藤洋介
だろう。
のほほんとした馬面の男がたくらむ、天下をひっくり返すような策略がお
もしろいと思う。