吉兵衛が侍女のたきを評してそういったとき、千代(仲間由紀恵)は、とぼ
けた顔をした。千代も以前、一豊(上川隆也)に同じことをいわれていた。
「新一郎にも嫁をさがしてやらねばならぬのう」
めしを食いながら、一豊はそうつぶやいた。
「まあ、旦那さまらしくもないことにお気づきになって」
「らしいとか、らしくないとか、いちいち申すな」
千代はいつもひとこと多い。
大河ドラマ功名が辻、第25回「吉兵衛の恋」
夜、山崎城の近くの森に梟がいた。「ミネルヴァの梟」を思い出した。
学問の神ミネルヴァのそば近くに仕える梟で古くから知恵を伝えるものと
される。
城内では秀吉と官兵衛が天下取りのために知恵を絞っていた。
謀議だが、陽気さがあった。
この間、一豊のような武辺者には出番がない。
一豊は吉兵衛の嫁取りについても、ややこしいことは千代に一任した。
千代は、さっそく知恵を出して謀った。
たきに暇をとらせて、吉兵衛の尻に火をつけた。
一方、越前北ノ庄にいるお市と勝家は、雪に閉ざされて春まで出てこられ
なかった。
「裏日本」といわれる地の哀しみのようなものを感じた。
しかしお市も、雪に埋もれた城の中で勝家をあやつり、小賢しさをみせた。
どこか思い詰めたように陰気だった。
「この世にふたつの正義があるならば、陽気な方に皆なびきまする」
千代は賢(さか)しげに一豊に語った。
「ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ」と哲学者ヘーゲルはいう。
歴史の真意は「当事者」たちにはわからない。