2006年06月26日

小賢しい女

「こざかしい女でございますな」
吉兵衛が侍女のたきを評してそういったとき、千代(仲間由紀恵)は、とぼ
けた顔をした。千代も以前、一豊(上川隆也)に同じことをいわれていた。

「新一郎にも嫁をさがしてやらねばならぬのう」
めしを食いながら、一豊はそうつぶやいた。
「まあ、旦那さまらしくもないことにお気づきになって」
「らしいとか、らしくないとか、いちいち申すな」
千代はいつもひとこと多い。
大河ドラマ功名が辻、第25回「吉兵衛の恋」

夜、山崎城の近くの森に梟がいた。「ミネルヴァの梟」を思い出した。
学問の神ミネルヴァのそば近くに仕える梟で古くから知恵を伝えるものと
される。
城内では秀吉と官兵衛が天下取りのために知恵を絞っていた。
謀議だが、陽気さがあった。
この間、一豊のような武辺者には出番がない。
一豊は吉兵衛の嫁取りについても、ややこしいことは千代に一任した。
千代は、さっそく知恵を出して謀った。
たきに暇をとらせて、吉兵衛の尻に火をつけた。

一方、越前北ノ庄にいるお市と勝家は、雪に閉ざされて春まで出てこられ
なかった。
「裏日本」といわれる地の哀しみのようなものを感じた。
しかしお市も、雪に埋もれた城の中で勝家をあやつり、小賢しさをみせた。
どこか思い詰めたように陰気だった。

「この世にふたつの正義があるならば、陽気な方に皆なびきまする」
千代は賢(さか)しげに一豊に語った。

「ミネルヴァの梟は夕暮れに飛び立つ」と哲学者ヘーゲルはいう。
歴史の真意は「当事者」たちにはわからない。
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2006年06月20日

胡蝶の夢とは?

一豊(上川隆也)の腕の中で、光秀(坂東三津五郎)は闇に舞う蝶をみた。
「胡蝶の夢…」と呟いて果てた。
功名が辻、第24回「蝶の夢」。

『荘子』に「夢に胡蝶と為る」という一節がある。

荘周は夢の中で胡蝶となり、空をひらひらと舞っていた。自分が荘周であ
ることなどすっかり忘れて楽しんでいた。しかし目覚めてみれば則ち荘周
に戻った。はたして、荘周が夢で胡蝶となったのか。この人間の姿こそ胡
蝶の夢の中なのか。どっちなのかわからないという話。

光秀は縁あって信長に仕えた。
牢人の身から辛抱を重ねて大名にまでのぼりつめた。そして何の因果か主
君信長を滅ぼしてしまい、いま自分は落武者狩りの百姓に命を絶たれよう
としている。
「胡蝶の夢」のように幻じみた、現実感のあいまいな人生だったのかもし
れない。

信長の人生もまた「夢まぼろしのごとくなり」だった。
信長の事業を相続し、関白となって位人臣を極めた秀吉も「夢のまた夢」
だった。

司馬遼太郎の小説に『胡蝶の夢』がある。
近代医学という新しい学問を通してみた幕末から明治という時代、そして
医師松本良順、島倉伊之助、関寛斎のそれぞれの人生を描いた長編小説。
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2006年06月12日

天へ昇る信長

本能寺で討たれた信長は、天への階段を昇っていた。
一豊(上川隆也)の心象風景の中の信長は、ブーツを履き、南蛮風のマン
トを身に纏った異邦人のような姿だった。
一豊の目には、信長が天界の住人であるかのように映っていたのかもしれ
ない。
功名が辻、第23回「本能寺 」。

「本能寺の変」の数ヶ月前に「天正の少年使節」がローマ教皇のもとへ向
かっている。使節の少年たちは、有馬セミナリオ(神学校)の学生だった。
信長は安土城内にもセミナリオをつくらせた。オペラハウスのような吹き
抜けのある空間で、イエズス会の宣教師たちが奏でるオルガンやヴィオラ
の響きを愉しんだという。
安土の夜は、琵琶湖の湖面を輝かせるほどの幾万の灯が道を照らし、異国
の宣教師たちを見送ったという。まるで、いにしえの長安やバグダッドの
ような国際都市の趣である。

南蛮の不思議な文化と妖しい輝きに満ちた信長の時代は、日本史の中でも、
とくに異質な感じがする。
宣教師フロイスによると、安土の王は長身痩躯で、髭は薄く、声は甲高く、
そして武技を好む粗野な人間あったという。
粗野とは、言動があらっぽく相手の感情などを考慮に入れないこと。

しかし「粗にして野だが卑ではない」という感じではないだろうか。
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