逢ひてからは、恋のたけが低し。
一生忍びて思ひ死にする事こそ、恋の本意なれ。
山本常朝「葉隠」より
NHK大河ドラマ「功名が辻」のほうの話である。
演じるのは香川照之で、女優の浜木綿子(はまゆうこ)を母に、三代目市
川猿之助を父に持つ、毛並みのいい役者である。
千代は幼いころの記憶を胸いっぱいに、一豊に忍ぶ恋をつづけていた。逢
えずに忍ぶ恋だからこそ、どうにもならないほど思いがふくらんいた。そ
れが、再会することで弾けた。破裂して、勢いが止まらなくなったのが、
第3回放送分における千代の激烈な行動でしょうね。
千代役の仲間由紀恵は、目が輝いていた。一豊に茶を出す場面、あのとき
の目は、たしかに恋する女の目であったと思う。
いっぽう、六平太は生き別れとなった千代を探していた。が、再会した千
代の心は一豊にあった。恋する思いを知るからこそ、六平太の忍ぶ恋はつ
づく。千代の恋を助けることでつづく。
恋の至極は、忍ぶ恋と見立て申し候。
相手とむすばれるだけが恋ではない。相手に恋の負担をかけるな。恋のた
けが低くなる。生涯思い続けて思い死にしてみろ。それが最高の恋である。
六平太は生涯にわたって千代を守り通し、最後は千代の盾となっていのち
を落とす。ついには忍ぶ恋を完成させるのである。葉隠れには、こうも書
いてある。「武士たる者は死に狂ひの覚悟が肝要なり」と。
六平太は、原作者の司馬遼太郎が小説世界に創造した人物だろう。司馬は、
しばし影のように生きる人間を絡ませて、物語をふかめる。
忍ぶ恋は、誰にでもあるものかもしれない。もちろんその相手は、いまの
夫や妻ではないだろう。
拾遺集に、こういう歌がある。
忍ぶれど 色に出にけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで(兼盛)
思い当たる人は、気をつけたほうがいいかもしれない。
●『葉隠』関連書籍
