うものが記されているのをみつけたという。史料によると、上忍は術にす
ぐれた有能な忍びで、下忍はそうではないもののことであったらしい。
ところが司馬は、「梟の城」で上忍と下忍を人間の階級分けとして使って
いる。
上忍を地侍(小領主)、下忍を小作人とし、忍者集団の中での身分とした
のである。
のちに自身でも、「少し独創的にすぎたか」と述懐している。
こうした社会構図を小説の中に持ち込むと、登場人物の行動のモチベーショ
ンが明確になってくるのかもしれない。
上忍である葛籠重蔵(映画版・中井貴一)は、時代がどう変わろうと、独
立した職能者である忍者としての道を生きる。
これに対し、下忍の風間五平〈上川隆也)は、忍びを捨て、武士として主君
に仕えることで、身分の上昇をはかろうとする。
利の対立なら和解もあるかもしれないが、身分社会の怨念がそこにくわわ
ると、ほふりあうしかなくなる。忍びとして秀吉を狙う重蔵と、守りの側
にたつ五平は術を駆使して激突する。
「竜馬がゆく」における、土佐の上士と郷士という身分上の対立も、物語
上、重要な構図のひとつになっていると思う。
「竜馬がゆく」では、のちに上士である板垣退助や後藤象二郎が、みずか
ら体制をひっくり返すために動きはじめ、維新の原動力となっていくこと
で、読者にある種のカタルシスをもたらす。
忍者など、職能に生きるひとたちは、職にのみ忠実で、誇り高い。
服部半蔵正就は、徳川の旗本として伊賀同心を率いたが、彼らの誇りを傷
つけたため、乱を起こされ、服部家は改易となっている。
忍びの集団とは、身につけた技能だけがものをいう、それぞれが自立した、
誇り高い集団ではなかったのかと思う。