2006年08月03日

日本沈没

日本沈没〈上〉

世界には、国を持たない民族がいる。
この小説の面白さは、日本人が国を失ったらどうなるのか?
を想像させるところにあると思う。
日本民族が放浪の民となったのちのことは、ほとんど書かれていない。
日本列島が沈没する前の、1億の日本人とその財産の処理のことがいろ
いろ書かれているので、そこから想像してみるのが面白い。

政府のD計画にもとづく依頼によって、京都の文明学者が各分野の専門
家を集め、脱出計画の大綱を練り上げる。文化的遺産を含む日本の資産
と、日本人の移住計画である。
文明学者は大綱を完成させた朝、精魂つきて果てる。
大綱をもとに、皇室はスイスへの移住が決まるが、各国への交渉は難航
する。
それぞれの国が民族問題や移民問題をかかえているし、国連の担当官た
ちは沈みゆく日本に同情はしてもいい返事を出せない。
日本の交渉官は、広大な領土をもつ国も受け入れの余裕がないこと、ま
た日本人が世界から嫌われていることを実感する。

美しい山河に抱かれて育ち、海外でいくら暴れても、やがては故郷に逃
げ帰ってくる日本人。
その故郷がなくなってしまったときに、どう生きていくかを問われる。
その問いは、日本人とは何かという問いでもあるような気がする。

日本沈没を予測した地球物理学の田所博士と、D計画の実質的指揮をとっ
た政財界のフィクサー渡老人の最後の行動がつよく印象に残った。

小松左京「日本沈没」上・下巻/光文社文庫

posted by 読書人ジョーカー at 03:02 | Comment(0) | 小説
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