一豊(上川隆也)は「御免」と叫び、馬に強く鞭を入れて駆け出した。
このときの「御免」ということばに重い響きを感じた。
「御免」は、ごめん。
つまり謝罪のことばで、先に行く無礼を免じてくれということ。
相手に対し、自分の都合で礼を失するときは、今風にごめん、ではなく
「御免」という漢字のニュアンスを込めた方が男っぽい。
功名が辻、第31回「この世の悲しみ」。
叔父の康豊が笹の葉を結んで、よねのためにコオロギを作ってくれた。
康豊のやさしさがよねの心に染み込んだ。
大きくなったら叔父上の嫁になりたいという。
司馬遼太郎のエッセイに、幼い頃、頬についていた御飯粒をとってもらっ
たことがうれしくて、叔父を好きになってしまった女性の話がある。
少女の心はそんなふうにできているのかもしれない。
よねの死で、コオロギよりも人間の方がもっと泣きたくなった。
「きりぎりす いたくな鳴きそ秋の夜の 長き思ひは我ぞまされる」
-古今和歌集
平安時代に編まれた、この歌にあるきりぎりすとは、コオロギのことら
しい。
逆にキリギリスの方がコオロギと呼ばれていたというのが通説である。
ふたつの虫の呼び名は、いつの時代にか入れ替わったという。
ちなみに「こおろぎ」と「きりぎりす」、どちらで打っても蟋蟀という
漢字に変換できた。
コオロギがよく鳴く。悲しみは私の方がもっと深いのに。