「殿下の息がくそうございまする」
淀はふくれた顔でそういった。
秀吉の死因は胃癌ともいわれる。
胃癌は強い口臭を発生させるらしい。
末期の秀吉には実際に悪臭があったのかもしれない。
「はよ、逝きなされ」
淀はさらに呪いの言葉を吐いて、秀吉の死期を早めていた。
女の妖気がただよう演技だった。
功名が辻、第39回「秀吉死す」
「わしはもはや実の子はのぞまん」
一豊(上川隆也)はそう宣言した。
千代への優しさなのだろうが、あるいは側室に魂を抜かれたような秀吉
の姿を見て、思うところがあったのかもしれない。
秀吉は、死後の権力に恋々とすることで、家を乱したような気がした。
秀吉が逝くことで、恋こがれた天下人となる機会が家康にやってきた。
突き上げてくるようなあまりの嬉しさ、興奮、ある種の不安が綯い交ぜ
となり、呆けた狸のようにダラリとしたのかもしれない。
人間信楽狸だった。
性格俳優という言葉があるが、西田敏行は体格俳優とでもいうべきか。
演技力だけでは、信楽狸にはならないだろう。