2006年12月11日

三途川

女は初めて契りを交わした男に背負われて三途の川を渡る、という言い
伝えがあるらしい。
此岸と彼岸を分ける三途川の賽の河原まで、先に逝った男があの世から
迎えにきてくれるという。

功名が辻、最終回「永遠の夫婦」
最後のシーンで、一豊(上川隆也)が千代(仲間由紀恵)を迎えに来た。
千代は一豊に背負われて砂浜を往った。
長く続いた戦国の最後の時代、働きずくめで苦労の多かった夫婦だが、
一年間のドラマの中に、密度の濃い人生を感じた。

千代の場合、初めての男と、ずっと夫婦だった男と、そして一番好きな
男が、すべて同じ男ということになる。三途の川まで迎えに来て、あの
世まで連れ添うというイメージは最終回の「永遠の夫婦」というタイト
ルに落ちてくるのかもしれない。

三途の川の言い伝えは、世界最古の小説ともいわれる「源氏物語」の中
にも滲んでいる。

「亡き人を慕ふ心にまかせても影見ぬ三つの瀬にや惑はむ」 
(朝顔の巻 藤壷を供養す)

激しく恋した藤壷に、あの世で会うことも叶わないという源氏の悲嘆。

「おりたちて汲みはみねども渡り川 人の瀬とはた契らざりしを思ひのほかなりや」
(真木柱の巻 玉鬘 ( たまかずら ) の物語)

渡り川とは三途の川の別名。あなたとは深い関係にはなれなかったが、
他の男に背負われることになるとは思ってもみなかったと言う。
これに対し女は、

「みつせ川渡らぬさきにいかでなほ涙の澪の泡と消えなむ」

三途の川など渡る前に、泡のように消えてしまいたいと言うのである。

此岸では叶わなかった恋を彼岸で実らせたいという気持ちは誰にもある
のかもしれないが、ずっと夫婦だった男女が、さらに彼岸まで寄り添う
のはどうなのか。人それぞれとしか言いようがない。
posted by 読書人ジョーカー at 02:40| Comment(26) | 「功名が辻」関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月04日

信楽狸

信楽焼 シーソー狸貯金箱

「殿下の息がくそうございまする」
淀はふくれた顔でそういった。
秀吉の死因は胃癌ともいわれる。
胃癌は強い口臭を発生させるらしい。
末期の秀吉には実際に悪臭があったのかもしれない。
「はよ、逝きなされ」
淀はさらに呪いの言葉を吐いて、秀吉の死期を早めていた。
女の妖気がただよう演技だった。
功名が辻、第39回「秀吉死す」

「わしはもはや実の子はのぞまん」
一豊(上川隆也)はそう宣言した。
千代への優しさなのだろうが、あるいは側室に魂を抜かれたような秀吉
の姿を見て、思うところがあったのかもしれない。
秀吉は、死後の権力に恋々とすることで、家を乱したような気がした。

秀吉が逝くことで、恋こがれた天下人となる機会が家康にやってきた。
突き上げてくるようなあまりの嬉しさ、興奮、ある種の不安が綯い交ぜ
となり、呆けた狸のようにダラリとしたのかもしれない。
人間信楽狸だった。
性格俳優という言葉があるが、西田敏行は体格俳優とでもいうべきか。
演技力だけでは、信楽狸にはならないだろう。
posted by 読書人ジョーカー at 18:02| Comment(0) | 「功名が辻」関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月25日

氏より育ち

「氏より育ち」という。
千代(仲間由紀恵)が邸の門前で拾い上げた子の氏素性(うじすじょう)
は定かではないけど、強く賢い子に育った。
悲しいほど一豊(上川隆也)を慕っていた。

功名が辻、第38回「関白切腹」。
拾(ひろい)は自分が捨て子だったということを知っていたという。
拾われて、育ててもらったからこそ、父の期待に添う自分でありたいと
思ったのかもしれない。
父の命をよく聞き、強い武将になろうとしていた。
その態度がいじらしく、一豊と千代の深い涙をさそった。
捨て子に家督を継がせれば、のちの拾自身と山内家に災いをもたらすか
もしれない。
一豊と千代は拾を仏門に入れた。

拾は臨済宗妙心寺の南化国師の弟子となり、のちに大通院二世湘南宗化
となる。
一豊の死後、千代は土佐を出て京の妙心寺の近くに移り住む。
早く拾のそばで暮らしたかったのかもしれない。

拾によって妙心寺と山内家の関係が深まった。
大通院御廟屋には一豊と千代のふたつの卵塔(墓石)が並んでいる。
湘南宗化は、一豊夫婦とよね姫を終生供養したといわれる。
妙心寺大通院は山内家の菩提所となった。

拾は蛙を捕まえて侍女を怖がらせていたが、僕も子供の頃にあれをよくやった。
自分が強い男子であることを誇示したかったのだろう。
posted by 読書人ジョーカー at 12:52| Comment(0) | 「功名が辻」関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。